『非色』

非色』(有吉佐和子:著)を読みました。
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309417813/

終戦直後に黒人兵と結婚し、子どもを連れてニューヨークに移住した日本人女性のお話で、人種差別が大きなテーマとなっています。

私は本を読むのは好きですが、多読するわけではなく、たまに何冊か好きな本を読む程度です。この本は偶然見つけて知ったのですが、私にとって初めての作家でテーマもあまり明るくなさそうなので、読み始めるのに時間がかかりましたが、読んでみたらとても面白くて、続きが気になって仕方がないほどでした。

初版は1964年で、確かに表現や漢字の使い方には多少の古さは感じられますが、内容は今でも十分に通じるもので、むしろ今の時代に書かれたのではと思うくらいです。

今ほど国際交流が進んでいなかった戦争直後の時代は、人種差別は今よりひどかったことは想像できます。日本人の外国人に対する差別、アメリカ国内での黒人差別、それだけでなく、同人種間での差別、異人種間での差別、国による差別など、これでもかというほど世の中には差別があり、昔は今よりひどかったことでしょう。差別を意図的にする人、無意識でしている人、自分はしないと思っていてもしてしまう人など。この本はその問題の根深さや、多くの要素が絡み合っている状態をうまく描写しています。

人種差別の原因は多くあります。社会、歴史、政治、階級、貧困、教育など。どれも容易に解決できるものではなく、だからこそ今でも無くならないでいるのでしょう。では差別をなくすにはどうしたらよいか。私は今、アドラー心理学を学んでいるのですが、アドラーの教えは役に立つのではと思っています。それは「歴史が悪い、過去が悪いと何かのせいにするのではなく、これから自分がどうなりたいかを考え自分ができることをしていこう」というものです。この本でもその方向に進む結末が描かれていて(アドラーとは関係ありませんが)、希望を感じました。

この本は読んで本当によかったです。みなさんにもお薦めしたい一冊です。

ところで、以前読んだ「身体はトラウマを記録する」とこの「非色」の表紙は、同じイラスト(と思われるもの)でした。これは偶然なのでしょうか。こういうことはよくあるものなのでしょうか。ちょっと不思議です。