『ケーキの切れない非行少年たち』

『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治 著)を読みました。

発達障害を持つ非行少年が収容される医療少年院に、精神科医として勤務していた著者がみた少年についての内容で、なかなか興味深い本でした。

私たちは犯罪を犯した人に対して反省、謝罪、償い、更生などを求めていると思います。刑務所や少年院に入り懲らしめて更生教育を行えば、罪の重さを理解し反省してくれると期待しがちですが、それができない人もいます。それは認知機能に問題があるからと著者は述べています。

たとえば、彼らに次のような質問を投げかけたとします。
「あなたは今、十分なお金を持っていません。1週間後までに10万円用意しなければいけません。どんな方法でもいいので考えてみてください」
「どんな方法でもいいから」と言われると、親族から借りる、消費者金融から借りる、盗む、騙し取る、銀行強盗をする、といったものが出てきます。「借りる」という選択肢と「盗む」が普通に並んで出てくるのです。「盗む」などという選択をすると後が大変になるし、そもそもうまくいくとも限らない、と判断するのが普通の感覚でしょうが、そう考えられるのは先のことを見通す計画力があるからです。
しかし先のことを考えて計画を立てる力、つまり実行機能が弱いと、より安易な方法である盗む、騙し取るといった方法を選択したりするのです。
世の中には「どうしてそんな馬鹿なことしたのか」と思わざるを得ないような事件が多いのですが、そこにも“後先を考える力の弱さ”が出ているのです。見通しを持って計画を立てる力が弱く、安易な非行を行ってしまう少年が多くみられました。

すなわち、犯罪行為をしても悪い事をしたという認識がなく「やりたかったから、した」というだけなので、被害者に対しての謝罪も、今後同じことを繰り返さないという反省も出てこないのです。これは根っからの悪人だからではなく、認知機能に問題があるからです。少年院や刑務所で懲罰的な指導をしたところで、本人は理解できていないのでまた同じことを繰り返してしまうのだそうです。

こういう認知機能の問題は特殊な例ではなく、こういう状態の子は小学校の35人クラスだと約5人もいる計算になるそうです。そういう子たちは勉強ができないだけでなく、話を聞いて理解したり人の気持ちを察したりすることができず、生きづらさを感じたりイジメに遭ったりして、ひいては犯罪を犯してしまうのだそうです。

このような不幸な少年(大人も)をなくすには認知機能を強化するトレーニングが有効と著者は提言しています。犯罪(そしてイジメなども)世の中から無くすために多くの方が方法を模索していますが、認知機能という視点は私にはなかったので、おもしろい内容だと思いました。